「オーデンセ学生映画祭」上映、タレントキャンプ参加


高校生のためのeiga worldcup2019最優秀作品
「日本一大きいやかんの話 - The Story of the Largest Kettle -

「オーデンセ学生映画祭」における上映&タレントキャンプ参加報告(矢座孟之進監督)!


2022年9月21日


  

 去る、8月30日〜9月4日、デンマークのオーデンセにおいて「オーデンセ学生映画祭 The Next film festivalが開催され、NPO法人映画甲子園主催「高校生のためのeiga worldcup2019」において最優秀作品賞を受賞した「日本一大きいやかんの話(英題:The Story of the Largest Kettle)」(東京学芸大学附属国際中等教育学校)を監督した矢座孟之進さんが参加し、作品も上映されました。

 以下は、その矢座さん自身による体験レポートです。



  オーデンセ到着

 8月29日、夏休みも残すところあと3日、段ボール箱を抱えて入寮する学生の波に逆らって僕はボストンの空港に向かった。アイスランドで飛行機を乗り継いで、ボストンからおよそ11時間、コペンハーゲン空港に到着した。空港からは電車に乗り継いで、目的の街まではまだ2時間ほどかかる。電車で揺られること30分、コペンハーゲンを抜けると車窓からあたり一面に広がる平野を眺める。映画制作のためにデンマークの電力事情について調べたとき、この風通しの良い平地を活かして風力発電はデンマークの電力の4割を構成していることについて読んだことを思い出す。上映まで残すところあと3日、海沿いに並ぶウィンドタービンがゆっくり回る様子を見ていると少し緊張も和らぐ気がする。

 オーデンセに着くと早速映画祭のバナーで迎えられる。1975年に始まった短編映画祭であるオーデンセ国際映画祭はデンマークで一番古い映画祭だ。街中にかかっているバナーやポスターをみると街全体がこの映画祭で盛り上がっている様子が伺える。今回僕がこの街にやってきたのはこのオーデンセ映画祭が主催する次世代の製作者のための映画祭The Next film festival(以降TNFF)に参加するためだ。世界中から主に21歳以下の映画製作者たちが集まり、自身の作品を上映するだけでなく、ワークショップやレクチャーを含むタレントキャンプに参加する。到着初日は映画祭の開催を楽しみにアンデルセンが生まれ育ったどことなく子供のときに読んだ童話の世界を彷彿とさせるこの街を散策した。

  タレントキャンプ

 翌日、オーデンセ映画祭の上映の裏で行われたのはTNFFのタレントキャンプだ。オーデンセ映画祭よりも小規模なTNFFのプラグラムは映画祭3日目から始まる。最初の二日間はオーデンセに世界中から集まったおよそ30人の若い映画製作者たちがタレントキャンプに参加する。今年はデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、チェコ、ドイツ、ギリシャ、オランダ、クロアチア、アメリカ、日本からなる10の国が参加した。タレントキャンプの講師を務めるのはChristina Rosendhal監督だ。デンマーク内外で数々の賞を受賞した映画監督である彼女がこの二日間で僕たちに身につけてほしいというのがcreative methodだ。一見語義矛盾 に思えるcreative method だが(creativeとは未だかつてないものの創造であることに対して、methodとは反復可能な単位の繰り返される再現である)、彼女自身が現場で使っているというこのmethodの実践を通して創造力の本質にせまるというプログラムだ。

 6人1グループに分かれてワークショップは始まった。グループ内でさらに2人ずつに分かれる。まず、2人組でストーリーの種となるアイディアとともにストーリーの展開に重要な3つの問いを考えて残りの4人に発表する。ストーリーの種と3つの問いを与えられた残りの4人は、ただ問いに答えるのではなく、映画のシーンや楽曲、絵画などの具体的な前例をもって問題を解決しなくてはいけない。これはRosendal監督が現場で問題に直面した際に実際に行っている手法で、音楽、脚本、撮影、各部門の長を部屋に集めて同じように問いを投げかけて、数日後にエッセイなり写真なり過去の具体例を持って戻ってくるように指示をするという。

 僕がこのワークショップで提案したのは20歳の少年と80歳の老人がスイスアルプスからローマまで一緒に歩くという物語だ。これは実話に基づいていて、この夏友人と二人でアルプスをハイキングしていた僕がスイスのホステルで出会った一人のオランダ人男性との会話がもとになっている。フランス、イタリアと二つの国境を越えてスイスに到着した僕たちは、せっかくスイスにやってきたからにはチーズフォンデュを食べなくてはいけないということでホステルに到着してすぐ二人分の夕食を予約した。
 しかし、その夜友人は食中毒にかかり僕は一人で夕食を食べることになってしまった。食卓に座って待っていると、当然二人分のチーズフォンデュが運ばれてきて、流石にこれを一人で食べきれない僕はどうしようかと考えていると、隣に一人のお年寄りが座っているのが目にとまった。事情を説明すると快く一緒にチーズフォンデュを食べることを承諾してくれたこの男性は、御年80歳でオランダからローマまで一人で歩いているとのことだった。食事の最後に僕も一緒にローマまで歩かないかと誘われたものの残念ながら僕はその誘いを断らざるをえなかった。あのとき、僕があの誘いを断らなかったどんな物語が待っていたのだろうか。それからも時々あの夜を思い出しては一人で想像に耽っていた僕はこの物語の続きをグループのメンバーに考えてもらうことにした。

 国際映画祭なだけあって帰ってきた回答の多様性に驚かされた。アメリカ人のグループメンバーは20歳の若者と80歳の老人という構造から『カールおじさんの空飛ぶ家』を連想してその映画の主要なシーンから物語の展開の一つの例を提案した。またあるデンマーク人のグループメンバーはあるデンマークの詩人が書いた幼少期から老年期にかけての人生観の変化を辿るひとつの詩をもとに二人の登場人物が旅から得るものの違いを描写する提案をした。このようにアイディアのコラージュを通して新たな作品が生まれるプロセスを実際に体験したことで経験の集積の雑多からハーモニーへの転換としての創造の経験的理解ができたような気がする。各国様々な文化から集まったメンバーでこのワークショップを行ったからこそ、この効果はなおさらである。それはすなわち創造とは無からの創造ではないということ。Creative methodの語義矛盾の謎も少し解けた。

  「日本一大きいやかんの話」の上映

 3日目いよいよTNFFの上映が始まった。今回ここで上映された「日本一大きいやかんの話」は高校一年生のときに僕が初めて制作した原発に関するドキュメンタリー映画だ。制作のきっかけは中学三年生のときの社会科の授業で行ったディスカッションだ。クラスで原発の賛成派と反対派に分かれて原発の使用の是非について議論したこのディスカッションは、みるみるヒートアップして、ディスカッションというよりもケンカに近いものだった。原発問題のどのような特性がこのように議論を難しくするのかが気になった僕は、同級生二人と3人で原発の賛成派と反対派の橋渡しを目的にしたドキュメンタリー映画を制作することにした。科学者や電力会社、政府関係者、NPOなどの専門家へのインタビューを中心に制作したこの映画をこれまで日本の高校を中心に上映してきた。
 過去にはドイツやフランスなど海外の映画祭への出品経験はあるがこうして実際に海外の観客の前で映画が上映されるのを見るのは初めてで、上映中は手に汗を握りながら最後のフレームまでじっと見守った。

  上映が終わって

上映後、映画をみた観客の何人かに声をかけられて劇場の前で気づけば円になって原発に関してのディスカッションが始まっていた。高校一年生、当時なるべく上映先には自分の足で出向いて上映後に質疑応答ではなく全体でディスカッションの場を設けるようにしていたのは、映画は作品だけでなく上映後の対話があって初めて完成するものだと信じていたからだ。こうして久々に自分の映画を観てくれた人々とこの映画をもとに議論をするとなぜ自分が映画を観る側から作る側になることを強く望んだかを思い出すことができた。
 一方で、他の監督の映画を観ていて興味深かったのは、上映前に一緒にワークショップや食事を通してお互いについて知れたからこそ、作品に製作者の人間性がどう反映されているかが見えたことだった。同時にたった二日間で作品の背後にいる製作者が見えるようになるまで親密な関係を作れたことことはこの映画祭でこのメンバーと一緒に過ごした時間がいかに素敵なものだったかを象徴しているような気がした。

 残りの2日間はオーデンセ映画祭のメインプログラムをみたり、TNFFの他のメンバーと時間を過ごしたりしてあっという間に映画祭は終わってしまった。気づけば「日本一大きいやかんの話」を制作してから4年の月日が経ち、こうして今でもこの映画を日本内外で上映できることを光栄に思う。最後にこの機会をくださったスノーコレクティブ、映画甲子園の皆様はじめオーデンセ映画祭の関係者の皆様に感謝の言葉を述べてこの報告レポートを締めたい。




街中にかかっていたオーデンセ映画祭のバナー

ワークショップの様子1

ワークショップの様子2

オーデンセ映画祭の無料の屋外上映の様子

TNFF参加者たちと

TNFF参加者の集合写真

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